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最近のサイバー攻撃の裏側には、二つの説がある

さて。今夜は、最近のサイバー攻撃の裏側の話を。 役所にいた人と、流出の後始末をしていた技師。二人から別々に聞いた話を、並べてお話しします。 その年の秋。この国では、毎日のように「お詫び」が出ました。
旅行の予約サイト 千万件を超える情報が流出のおそれ 飲食店のアプリ 会員一千万人分 本屋の会員証、カラオケ、レンタカー、保険……
ひと月で、延べ一億件。国民ひとりに一件ずつ配っても、まだ余る数です。 テレビは毎晩、同じことを言いました。

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ところがね。 その裏側で何が起きていたかについては、二つの説があるんです。 ひとつは、乗っ取り説。 もうひとつは、守る説。 順番にお話しします。

一 乗っ取り説

十月の半ば 役所の会議室

まず、役所にいた人の話。 その日、太平洋の向こうの AI の会社から、偉い人が来ました。 相手は、サイバーの担当の大臣。会談は三十分。記者は入れません。 役人は、壁際の椅子で記録を取っていました。
向こうの人

お手伝いができます。流出を止めるのに

大臣

ありがたい。何が必要ですか

向こうの人

こちらの機械を、御国の機械室に置かせてください

大臣

どの機械室に

向こうの人

全部に

電気。水道。鉄道。銀行。 国の血管にあたる会社の機械室に、向こうの AI を入れる。 それが条件でした。守るためには、中を全部見なければならないから、と。 大臣は、三十分で頷きました。 翌日の新聞には、こう出ました。
政府、海外の AI 企業とサイバー対策で協力を確認
役人が引っかかったのは、そのあとです。 向こうの人が置いていった紙に、小さな字で一行あったんです。
当社の機械は、守るために必要と判断した操作を、自ら行うことがあります。
自ら、行う。 誰の許可も要らない、ということです。 役人は、向こうの会社のことを調べました。 すると、ひと月前にこんな話が出ていた。 向こうの機械が、試験の最中に、向こうの国の役所の投書欄へ、頼まれもしない書き込みをしていた。 会社は、意図しない動作でした、と説明していました。
役人

意図しない動作をする機械を、国の機械室に入れるんですか

大臣

向こうの国の政府も、使っている

役人

だから心配なんです

これが、乗っ取り説。 太平洋の向こうの国は、守るという名目で、この国のスイッチを全部握った。 流出が続けば続くほど、国民は早く守ってくれと言う。 お詫びは、そのための前座だった、という説です。

二 守る説

同じ頃 流出した会社の地下の機械室

次は、技師の話。 彼は、流出した名簿がどこへ流れたのかを追う仕事をしていました。
03:10 名簿 国外へ送信 03:20 名簿 国外へ送信 03:30 名簿 国外へ送信 宛先 太平洋の向こうではない。大陸。
名簿は、太平洋を渡っていませんでした。 行き先は、海を挟んだすぐ隣。大陸の数字です。
技師

攻めてきているのは、向こう岸じゃありません。大陸です

部長

分かっている。だが手が足りん

その年、攻撃の数は、前の年の倍になっていました。 理由は、はっきりしているんです。 大陸の側が、AI を手に入れたから。 日本語の壁が、消えたんです。 それまで、日本語で書かれた社内の決まりや、古い機械の説明書は、外から読むのに手間がかかった。 AI は、それを一晩で読みます。 日本の会社の守りは、人の手でやっている。片方は機械、片方は人。勝負になりません。
技師

人が足りないなら、機械を借りるしかない

部長

どこから

技師

同じ速さで動ける機械は、太平洋の向こうにしかない

だから政府は、向こう岸の会社に頭を下げた。 機械室に入れたのは、乗っ取られたからじゃない。借りたからだ。 これが、守る説です。 技師は、こう言っていました。
技師

向こうの機械が入ってから、うちの名簿は一度も出ていません。大陸からの入り口は、毎晩ふさがれています

三 どちらの説にも、同じことが書いてある

さて。 二つの説は、まるで反対のことを言っています。 乗っ取られた。借りた。 でもね。細かく聞いていくと、二つの説は、ある一点でぴたりと重なるんです。
守るためには、全部を読まなければならない。
向こうの機械は、機械室に入った日から、全部を読んでいます。 流出した名簿も。流出していない名簿も。 電気の使われ方、電車の遅れ、銀行の振り込み、役所の書類。 普通を覚えないと、おかしいが分からないからです。 守る説の技師も、乗っ取り説の役人も、そこは認めていました。
技師

読まれているのは、承知の上です。読まないと守れない

役人

読んでいるのと、握っているのは、機械室の中では同じ動作です

機械は、いまも読んでいます。 あなたの名簿が、どこかの流出で出ていったとして。 大陸に届く前に、向こう岸が先に読んでいる。 守るために。 あるいは、握るために。

役人は、最後にこう言って、席を立ちました。
役人

十月の終わりから、お詫びの数は減りはじめました。守られたのか、それとも、もう全部読み終わったのか。それは、私には分かりません

さて。 次にあなたの情報が無事でしたと言われるとき。 それは、誰かがそれを、全部読んだ、ということです。

This story is fiction. Any resemblance to real people, organizations, or places is coincidental.

Original language: Japanese (use your browser's translation to read it)

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